Postsomoroi-being記事

1000度の鉄球、竹筒に置いちゃいました
1000度の鉄球て!一輪挿しの花ならまだしも。この投稿動画をSNS上で見たことがある人はすかさず突っ込んだかもしれない。竹筒だけではない。パイナップルの皮からこんにゃくまで。これらを毎回企画して撮影・投稿しているのは、ここ大阪西淀川区にある町工場、大阪染織機械株式会社の社長山本哲士さんである。大阪染織機械株式会社は紙や布などのシワや縮みを除去するエキスパンダーロールの設計・修理・製造をする会社である。
会社の名前が売れればそれで良かった
本来は、1000度の鉄球を竹筒に置く技術を開発している企業ではない。だが、これがバズり倒している。どうして、こんなことをはじめたのか。山本さんに話を伺った
「知名度向上のためです。エキスパンダーロールの技術は実は日本で3社しかない。しかも重要な分野。ただニッチすぎるし、シェア率でいえばうちは大手に負けている。技術がどんなに良くても技術だけじゃ売れない時代。別のことをして名前を売れば自然と話がくるんじゃないかと考えました。本業がメインだったのが、いつのまにかサブのコンテンツがバズりすぎてそっちのほうが先行してしまった。(鉄球の動画は)海外でバズりまくって海外のインフルエンサーに真似た動画も作られました。総再生回数は3億超えてるんで。ただ本業にはつながらないです(笑)」
あんま考えたらダメなんです
- 目立つために実益にはつながらない役に立たない実験動画を連投すれば、そっちのほうが受けてしまった。それが先走りすぎて世界でバズったのだ。山本さんの投稿はこれだけではない。最初にバズったのがこの「360度ボルトだらけの栓抜き」。廃材を集めて1時間くらいで作ったものだという。
不便にすら見えるが、この商品を使いたいと介護施設から問い合わせが来たほど。たしかに、おじいちゃんおばあちゃんでもこれならば開けられそうだ。使ってみたくなるのである。筆者も早速使わせてもらったがヒットする投稿を連発する秘訣はあるのだろうか。
「単純なものでいいんです。たとえばエスカレーターのぼる瞬間とか、当たり前にみているけど、じゃあそれを動画にしてSNSあげているか。まず見ないでしょ、SNSで。そういう発想なんです。単純なものを常日頃考えて動画にしたら面白いんちゃうかという発想を持っていたらネタは尽きないんです。日常で見飽きてるものでも動画にしてSNSに上げたら面白いものになる。あんま考えたらダメなんです」
作り込む必要はない。作り込めば作り込むほど、視聴者は冷めてしまう。むしろ一見、くだらないことや無駄に思えるものの中に面白さや人々が反応する宝物が埋まっているのだ。
みんな完璧にSNSしなあかんと思いすぎ
当然、セオリー通りにはいかない時も出てくるわけで、反応が思ったよりも少ない投稿もある。そんなときはどうすればいいのか。
「みんな完璧にSNSしなあかんと思いすぎなんですよ。会社のためにせなあかんとかガチガチなんですよ。発想を軽くしたらいいんですよ。(うちは)全部完璧やなくて、鉄球の動画は3、40は失敗してますよ。副業でそこまで力も入れてないし思いつきでやってるんで。プレッシャーはあるんですけど、思いついたもんやったらええやんと。そしたら継続になるじゃないですか」
この山本さんのメンタルはSNSの世界では重要要素であるといえる。反応が少ない、そんな局面でも、副業感覚でやっているからこそ余裕が生まれる。そこに遊びが生まれ、ハッとするような新鮮な面白さにまたつながっていく。この余裕があるから次のヒットまでの「つなぎの季節」を乗り越えられるのである。
岸和田人って昔から面白いものが好き
山本さんのこのメンタルは一体どのような環境で培われてきたものなのだろうか。
「育った場所が岸和田なんですよ。だんじりもあるじゃないですか。小さい頃は、そういうオモロイところに育ったのもあるから、目立つ発想もできるし、ちょっと変わったことしたがるんです。岸和田人って、けっこう昔から面白いものが好きで。だから勉強もしました。独学ですけど。海外の動画めっちゃみたんですよ。そしたら海外の動画もあんまり考えず、単純な発想とか、ほんましょーもない発想のものが多かったんですよ。」
お祭り好きの岸和田で生まれ育った精神が、いまSNSという場で世界とシンクロしている。
一見しょーもないことを面白がれる関西人の発想が、想像力の源泉なのだ。
最後に山本さんにいつも動画を撮影している舞台を案内していただいた。まるで中世の錬金術師の工房のような空間。すでにこんなニューカマーもスタンバイされていた。一体つぎはどんな動画が生まれるのだろうか。一挙手一投足に目が離せない。