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毎朝6時。スマートフォンの画面の向こうで、一人の女性がカメラに向かって屈託なく笑いかける。すると、画面の下から、滝のようにコメントが流れ始める。多くのコメントに対し彼女は軽快に反応、時に鋭くツッコミ、時に腹を抱えて笑う。気づけば、買い物かごには新しい服が追加されている。

ここは、株式会社Cellestが運営するライブコマースチャンネル「ぞうねこちゃんねる」の日常。この熱狂的な「ライブコマース」は、月商2億円近くを生み出す巨大なビジネスだ。
ECサイト×ライブ配信×テレビショッピングの進化版
近年、注目を集める「ライブコマース」。ECとライブ配信を組み合わせた、いわばテレビショッピングの進化版。日本では長年「流行らない」と言われ続けてきたが、その常識を覆し、驚異的な成長を続けるCellest。その真の凄みは事業規模だけではない。中心にいるのは、強烈な哲学を持つ二人の人物だ。
お話を伺ったのは、代表取締役CEOの佐々木宏志さんと、トップコマーサーのkanaさん。
「効率化」や「AI」が当たり前になったこの時代に、人間中心のこの活動が、人の心を掴んでいるのだろうか。
その根底にある、私たちが知る「インフルエンサー」や「推し活」とは少し違う、新しい関係性。お二人の言葉から、その核心に迫りたい。

二人の出会いは大学時代、京都・河原町の信号。ファッション好きのkanaさんの私服を売ることから、二人のビジネスは始まった。2017年、フリマアプリにライブコマース機能が追加されると、「やってみよう」と即座に参入。すると、面白いように事業は伸びていった。「100円の売上が200円になるのがずっと続いている感じ」と二人は笑う。
しかし、その成長は決して順風満帆なだけではなかった。
kana:まずはやってみてから改善したらいいと思っていました。「絶対いけるやん」と、根拠のない自信で迷わずボタンを押して始めました。
――― 一番の失敗談は何ですか?
kana:実は最初は顔出しをするのが恥ずかしくて、サングラスをしていました。でも、サングラスをかけると、「この服の色は何色ですか?」と聞かれた時に、全く色が分からなくて。毎回、サングラスを上げて確認しながら「これは緑です」と言わなければならず、結局、サングラスをかけた女性から、今の顔出しスタイルに変更することになりました。笑
根拠のない自信と、人間味あふれる失敗。そんな彼らが月商2億円の熱狂を生み出すに至った事業の大きな転機は、TikTokの活用と「朝配信」の開始だった。特にメインのターゲットである30-50代の女性が視聴しやすい朝の時間帯の配信を始めたことで、月商は5000万円から1.3億円へと跳ね上がったという。その根底には、佐々木社長が一貫して信じる、ある哲学があった。
佐々木: 自分が商品やサービスを買うときに、ほとんど人で決まる。私がよく考える購買心理で、飲食店に入る時もAとBで迷ってなぜAに入ったのかを考えます。自分が一番リピートしたり、物事を購入する時の決め手となるのが人なんです
この『購買の決め手は人である』という哲学を体現するkanaさんだが、その立ち位置は一般的なインフルエンサーとは明確に異なると、本人は語る。
kana: インフルエンサーはクリエイターなので、憧れの対象です。ライブコマーサーはセールスマンなので、身近にいる人、という違いがあります。
その「身近さ」は、どこから生まれるのだろうか。
kana:私は正直に話すことだと思います。ライブ配信で隠すことは何もないです。たまに怒ったりもするし、嫌な言い方をすることもあります。良いことがあれば素直に喜ぶし、表現はすべてストレートです。だから、何かを隠したり、作ったりしていないところが、身近に感じてもらえる理由なのかなと思っています。
徹底した自己開示。それに加え、彼女が徹底するのが「平等」というルールだ。
kana:とにかく平等であることです。例えば、月に100万円使ってくれるお客さんに対しても、はじめてのお客さんに対しても、全員に平等に接します。そして、それを考えているだけでなくきちんと言葉で伝えることも心がけています。
このスタンスがSNS上に完璧な「憧れの姿」が溢れる現代において、逆説的に強い信頼を生む。有名なタレントやインフルエンサーを起用せずkanaさんのような個人の魅力が最大限に活かされる場につながる
では、お二人は自らの仕事の「面白さ」を、どのように捉えているのだろうか。kanaさんは「裏方でも表でも、毎日文化祭のような感じで、達成感に溢れています」と語る。一方、佐々木社長は二つの軸を挙げる。
佐々木:一つ目は、誰もが驚くような偉業を成し遂げた時が面白い。先日も中国に呼ばれて登壇してきましたが、登壇企業がLINE、X、TikTokといった巨大企業ばかりで。そこに私たちが呼ばれる。「俺らこんなことになっているんだ」と。私は昔から、自分の力を信じている部分があって。その力が「井の中の蛙」なのか、それとも世界に通用するのか、というのを試したいんです。 もう一つの視点で言うと、私のミッションは仕事を楽しくすることです。つまらなそうに働いている人もいますが、自分は仕事が楽しいから人生のほとんどが楽しい。「仕事はつまらない」を覆したい。だから、うちの会社ではみんながワイワイ騒いでいたり、私は代表ですが、めちゃくちゃいじられたりします。
日々の達成感を『文化祭』と表現する幸福感と、自らの力を世界で試し『働く』の定義を覆そうとする挑戦。この二つのエネルギーこそが、彼らのおもろい仕事論を形作っているのだろう。
―――事業の拠点を東京ではなく大阪にしたことの理由は?。
佐々木:ここ(大阪)が世の中の、世界の中心だからです。理由はなく、そこにロジックはありません。ですが、本気でそう思っています。
関西では長期間の関係性において、「おもろい」が重要な指標になる。「距離の近さ」と、本質的な「面白さ」を尊ぶ文化こそが、ロジックを超えた人間中心のビジネスを生み出す土壌になるのである。
人と人が繋がり、熱狂が生まれる瞬間に立ち会うこと。その瞬間の連続こそが、彼らのビジネスの本質であり、これからの時代を照らす一つの光なのかもしれない。
